第十一話:全ての想いは枯れ果てる
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ラベンダーの言葉に、カンナはこれまでに無いほど喜びを露わにした。

もうじき、愛しの彼女に会える!

満面の笑みを浮かべるカンナの姿。
喜ばしい事のはずなのに、ロゼの胸は痛む。
そっと表情に影を落とす少女に、ラベンダーだけが気付いていたけれど、今は見て見ぬふりをした。

「何か必要なモノはあるかい?」
「俺を誰だと思ってんだよ。何でも出来る天才魔法使い様にはなーんにも必要なモノなんてねーよ! 黙って見てろモブキャラA」
語調はいつも通りだが、顔は真面目なまま。
顔をごしごしと乱暴に拭い、気合を入れ直す。

俺に出来ないことはない。
自分にそう言い聞かせて、ラベンダーは魔法を使った。

頭の中でイメージをする・・・なんて必要さえない。
ただ、こうしたい、ああしたい、こうなれ、ああなれ、そう思うだけでいい。
それほどまでに、『なんでも出来る』のが本来の彼の力である。

ラベンダーが『なんでもは出来ない』とするならば、それは自分の意志や先入観がそうさせるか、或いは――。

「あ?」
「どうした? 早く彼女を蘇らせてくれ」
「わ、わーってる」
再びいつもの様に魔法を使う。
けれど何度意識を魔法へ持って行っても、何故か発動しない。

今度は丁寧に時間をかけて、一つ一つのイメージまでして、それこそゲームによくある詠唱時間とやらを付けたして、魔法を試みたけれど、どれも不発で終わる。
徐々にラベンダー自身も動揺と焦りが生まれ、その姿にカンナは疑念を抱いた。
「どうしてそんな勿体ぶるんだい?」
「ちがっ! なんかわかんねーけど、魔法が使えねーんだよ!」
「使えない? 何を馬鹿な事を!」
「本当なんだって! 嘘付く理由なんてねーもん!」
期待が膨れていただけに、想定外の事態はカンナを苛立たせた。
感情的になり冷静さを欠いた彼には、ラベンダーの言葉を受け止めるだけの余裕がなく。
ラベンダーの傍らに佇むロゼを見て、思わず口を吐いた。

「ロゼ、ラベンダーが彼女を蘇らせるまで、自害しろ」


その場の空気が凍りつくのが分かる。
この男はいまだにロゼが己の言うことを聴くと信じているのか? とラベンダーは呆れ返っていたが、その横で神妙な面持ちのロゼが小さく頷いた。
「仰せのままに」

喜びと哀しみをないまぜにしたカオを見せ、そのまま舌を噛み千切る。
「ロゼ!!」

直ぐに魔法で回復させて体を支えるけれど、ロゼはその腕を押しのけ、今度は窓を割りその破片を喉へと突き刺した。

再び魔法で蘇らせると手にした破片を何度も何度も、動かなくなるまで胸に突き刺す。
そこいら中が真っ赤に染まっても尚止まらない。

動かなくなったロゼをまた蘇らせる。
今度は其の為にあるわけがない長い髪を首に巻いて窒息。

そうしてまた蘇らせる。
次は頭を思いきり壁に打ち付けて打撲。

また蘇らせる。

何度も何度も同じことを繰り返して繰り返して、何度蘇らせても、ロゼは死んでゆく。

「何でお前は、こんな奴のいう事聴くんだよ!」
動かないロゼに哀しみをぶつける。
この地獄絵図の様な情景を見て少し落ち着きを取り戻したのか、カンナはほくそ笑む。
「僕だって、こんな手段は選びたくなかったよ。でも、きみが悪いんだ。彼女を、僕のコロを蘇らせないから!」
「だったら俺を痛めつけろよ! なんでロゼが死ななきゃいけないんだよ!!」
「自分の傷より他人の傷の方が、時として痛いだろう?」
「ッ――!」

今迄のカンナの手口から、手段を択ばない冷酷な奴だとは分かっていたことだけれど、この言葉を耳にして初めて、狂っていると感じた。
きっとまた、ロゼを蘇らせても彼女は自ら命を絶つ。
ただ一人を狂おしい程に愛したカンナ。
そのカンナへ命を捧げる程に恋したロゼ。
皆皆歪なほどに真っ直ぐで、誰一人幸せに成れていない。

「俺が、コロンバインを蘇らせれば、全部それで終わるのに、なんでっ!! なんで出来ないんだよぉお!!」
その場に崩れ落ち、己の無力さを嘆く。

人を蘇らせた。
出来ない事なんて何もない。
そう思ったのに・・・。

たった一人だけ蘇らせることが出来ないなんて!


ラベンダーは本当は理解していた。
どんなに『なんでも出来る』力を持っていても、自分の知り及ばない事は出来ないという事。
勿論、『コロンバインという存在を知らないから』なんて単純な事ではない。
本人を知らなくたって蘇らせることは出来る(現にロゼの本質を何一つ理解していなかった)。
もっと形の違う、別の何かが魔法の邪魔をしている。
けれどそれが何かが分からない。
分からないことには対処のしようがない。

少なくとも、この時の少年には、コロンバインを蘇らせることは不可能だった。


彼が『なんでもは出来ない』のは、経験と知識不足に他ならない。


「本当にコロを蘇らせられないの・・・?」
「ああそうだよ! 俺はお前の願いを叶えられないできそこないだ!」
「ど、どうして?! だって、コレは何度も蘇らせたのに・・・!! 何故コロは出来ないんだ!?」
「知らねえよ!! つーか俺が知りてえよ!!」
とうとうラベンダーはプライドも減ったくれもなく声をあげて大泣きをし始める。
その姿から、本当に『出来ない』のだということを悟り、顔を真っ青にしてカンナは壁に手をついた。

誰一人報われない結末。

年相応に泣きじゃくる少年の慟哭だけが、その部屋に響き渡っていた。




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